2024年春号

はじめに

BDOインターナショナルは世界第5位の会計事務所ネットワークファームであり、現在、世界166の国・地域に1,776のオフィスを展開し、グループ全体として現在11万人を超えるパートナー・スタッフを擁しています。BDOインターナショナルでは監査業務を中心に、税務業務・アドバイザリー業務・アウトソーシング業務(記帳代行業務、給与計算代行業務、支払代行業務等)・コンサルティング業務等を世界各国において高水準にて提供しております。詳細についてはウェブサイトをご覧下さい。
https://www.bdo.global/en-gb/home

日本においては、BDO Japan株式会社を軸に、三優監査法人、BDOアドバイザリー株式会社、BDO税理士法人、BDO社会保険労務士法人、BDOコンサルティング株式会社等のメンバーファームを有しており、日本全体で約530名のメンバーを擁する中規模会計事務所のリーディング・ファームとなっています。日本においても、監査業務を中心に、税務業務・アドバイザリー業務・アウトソーシング業務等のプロフェッショナル・サービスを日本企業及び在日外国企業に対して提供しています。

一方、アジア地域においては、現在シンガポール・香港・ベトナムに日本人スタッフがジャパンデスクメンバーとして常駐しており、日系企業による海外進出をサポートしています。具体的には、会社設立から記帳代行、給与計算代行、支払代行、監査、税務、M&A、コンサルティング、清算等、幅広いサービスを日系企業に対してワンストップ・サービスにて提供しています。

BDOジャパンデスクの強みは、各国ジャパンデスクメンバーの対応業務範囲の広さと、BDO Japan株式会社を中心にしたネットワークの繋がりの強さです。BDOジャパンデスクメンバーが中心となって四半期ごとに日本語でのニュースレターを配信しています。ニュースレターでは各国における会計・税務等の最新情報をお届けしています。

2024年春号では、各国での最新情報を皆様にご提供しています。本稿のより詳細な情報をご入用の際には、各国のBDOジャパンデスクメンバーまでお気軽にお問い合わせください。  


2024年春号目次

【シンガポール】国外資産の売却等により生じた利益への課税
【香港】2024/25年度香港予算案ハイライト
【ベトナム】外国契約者税 (FCT) について
【中国】現地ナショナルスタッフとのコミュニケーション
【日本】令和6年度税制改正(法人税法関連)   

 

【シンガポール】国外資産の売却等により生じた利益への課税

 シンガポール所得税法セクション10Lが新たに定められたことにより、キャピタルゲインであっても課税される場合があります。具体的には、以下のいずれにも当てはまる場合には、それが性質上、キャピタルゲインであっても課税されることとなります。

 1.2024年1月1日以降、
 2.シンガポール国内に経済的実体がない法人等が、
 3.国外資産を売却等により処分し、
 4.その処分対価をシンガポール国内で受領する場合、

当該処分によって生じた売却益は課税される。


1. 2024年1月1日以降

2024年1月1日以降に売却等の取引を行った場合に、本改正が適用されます。従って、例えば2023年12月31日以前に契約を締結し、売却取引を実行したものの、対価の授受は2024年1月1日以降に行われたような場合は、本改正は適用されません。


2. 経済的実体がない法人等

「法人等」にはいわゆる株式会社の他、パートナーシップ、信託が含まれますが、個人は含まれません。
経済的実体の有無は、純粋持株会社とそれ以外の会社で判断基準が異なっており、「経済的実体がある」とされるには、それぞれ以下の要件を満たす必要があります。
 
純粋持株会社以外の会社
以下のいずれも満たすこと。
  1. シンガポール国内にて、取引、事業、専門的業務が遂行されていること。
  2.  シンガポール国内にて業務が実施・管理されていること。
  3. シンガポール国内に合理的な経済的実体を有していること。これには以下の要素が考慮される。
   A )シンガポール国内におけるフルタイム従業員の人数
   B)上記従業員が有している資格及び経験
   C)収入に対するシンガポール国内外で生じた事業支出額
   D)重要な意思決定がシンガポール国内にいる者によって行われているか否か
 
純粋持株会社
以下のいずれも満たすこと。
  1. 法律に基づき要求される法定書類(税務申告書や財務諸表等)の提出義務を遵守すること。
  2. シンガポール国内にて業務が実施・管理されていること。
  3. シンガポール国内にて適切な人員が配置され、かつ事務所等施設を有すること。


3.  国外資産

国外資産とは、シンガポール国外にある動産又は不動産であり、例えば以下のような資産が該当します。
  • 国外企業が発行した非上場株式(例:海外子会社株式)
  • 国外にある不動産
  • 海外の証券市場に登録された株式/債券
  • 債権者が国外居住者である貸付金
  • 国外居住者が所有権を有する知的財産権


4.対価をシンガポール国内で受領

対価をシンガポール国内で受領した場合とは、以下のいずれかに該当する場合とされています。従って、たとえ売却対価をシンガポール国内に送金しなくとも、当該対価を債務の返済や新たな資産の購入に充当するような場合は、実質的にシンガポール国内で受領したものとみなされることに留意が必要です。
  • シンガポール国内に対価が送金される。
  • シンガポール国内の取引や事業によって生じた債務の返済のために、対価が充当される。
  • 動産の購入のために対価が充当され、当該動産がシンガポール国内に持ち込まれる。

今回の改正は主にシンガポール国内に経済的実体のない会社が影響を受けることとなりますが、適用間もないルールであり、経済的実体の有無の判断基準が必ずしも明確ではないことから、国外資産を有する企業で将来的に当該資産の売却を視野に入れている場合は、本改正による影響の有無を外部の専門家の意見も交え早期に検討することをお勧めいたします。なお、1年内に売却を行う可能性がある場合には、税務当局IRASに対して事前に経済的実体の有無の確認を申請(ESR AR application)することも可能です。


担当:BDO シンガポール 森田 陽平 yoheimorita@bdo.com.sg 

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【香港】2024/25年度香港予算案ハイライト

ポール・チャン財政長官は、2024年2月28日、2024/25年度予算案演説を行いました。2023/24年度の財政赤字見込みは約1,016億香港ドルで、当初の見込みを約544億香港ドルを上回りました。財政準備金は2024年3月31日までに約7,332億香港ドルに減少します。

政府の歳入に関する2023/24年度の修正見積りは、主に土地プレミアムと印紙税からの収入が見積りを下回るため、当初の見積りを5,546億香港ドル下回っています。

2023/24年度の歳出修正見積りは7,279億香港ドルで、前年比で10.2%減少しました。

2024/25年度の財政赤字見込みは481億香港ドルと推定され、財政準備金も6,851億香港ドルに減少すると見込まれます。

主な施策のハイライトと税制に関する論評は以下の通りです:

主要施策
  • 賃貸借物件の原状回復費用の税額控除を認める。
  • 事業所得税上の工業用建物償却費及び商業用建物償却費の控除期限を撤廃する。
  • 不動産投資信託(REIT)の譲渡およびオプション・マーケット・メーカーの証券販売事業に係る印紙税を免除する。
  • 2024/25年度以降、給与所得税及びその他個人所得税において2段階の標準税率制度が適用される。標準税率が適用される納税者の純所得が500万香港ドルを超える場合、最初の500万香港ドルには、引き続き15%の標準税率が適用され、500万香港ドルを超える部分については、16%の標準税率が適用される。
  • 情報・技術分野におけるより多くの特許発明を促進するため、事業所得税率5%の「パテントボックス」税制優遇措置を実施する法案を導入する。
  • 2025年以降、経済協力開発機構(OECD)のグローバル最低実効税率15%を、香港の域内最低上乗せ税制を通じて、年間連結売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループに適用する。
  • 税優遇制度の範囲の見直し及び適格取引の種類の拡大を含め、ファミリーオフィス、ファンド、附帯権益に対する税制優遇措置を強化する。
  • 船舶リース業、海上保険業、船舶代理業、船舶管理業、船舶運送業等の海運業に対する税優遇制度の更なる拡充について検討を開始する。
  • 2026年3月まで電気自動車の初度登録税優遇措置は延長される一方、優遇限度額は40%減額される。「一台につき一台買い替え」スキームに基づく最大の税制優遇は172,000香港ドルに修正されるが、一般電気自家用車の優遇上限は58,500香港ドルに引き下げられる。税引前500,000香港ドルを超える電気自家用車には、いかなる優遇措置も適用されない。
  • シルバー債500億香港ドル、グリーン債、及び、インフラ債200億香港ドルの合計700億香港ドル相当のリテール債を発行する。

担当:BDO香港 吉田 薫 KaoriYoshida@bdo.com.hk

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【ベトナム】外国契約者税(FCT)について
ベトナムには外国契約者税(Foreign Contractor Tax、以下FCTとする)という、いわゆる日本の国内源泉所得のような徴収方法としたベトナム特有の税制が存在します。このFCTは、ベトナム国外の個人や事業者(以下、外国契約者)がベトナム国内の個人や事業者(以下、ベトナム国内契約者)に対して取り交わした契約について、ベトナム国内で行ったサービスとして課税されます(外国契約者の恒久的施設の有無にかかわらず課税されることとなります)。そして、このFCTは所得税や法人税および付加価値税により構成されています。契約書に基づき課税が行われることで契約書の作成についても注意が必要だと考えます。もしこのFCTが租税条約が相反する場合は、租税条約の規定が優先されることとなります。


1. 納税義務者

いわゆる日本の国内源泉所得のような徴収方法となりますので、FCTの負担者は外国契約者となり納税義務者はベトナム国内契約者となります。このため、通常は契約代金を外国契約者へ支払う際に、ベトナム国内契約者がFCTを源泉徴収し、申告納税することとなります


2. 申告納税の手段 

申告納税の方法としては、直接法・控除法・ハイブリッド法(みなし法と控除法の折衷)の3種類があります。
主な手段である直接法はベトナム国内契約者が納税義務者となるため外国契約者への対価の支払の都度から10日以内に源泉徴収した税額を国に納付することとなります。ここでは法人税と消費税に区分されたみなし税率を利用することとなります。


3. 非課税事業者

税金負担者である外国契約者のうち下記については課税対象となりません。
  • ベトナム国内にベトナムの法律に基づいて設立された個人や事業者
  • サービスの提供を伴わない物品の販売を行う個人や事業者
  • ベトナム国外で提供され、かつ、消費されるサービスを行う個人や事業者(消費地課税)
  • 航空機や船舶などの輸送手段の修繕、広告宣伝サービスなどを、ベトナム国内の個人や事業者にベトナム国外で提供する個人や事業者


4.最後に

契約書の作成内容によっては、本来のサービス部分だけでなく契約書金額の全てにこのFCTを課せられる場合があります。さらにリース取引と分割払いの利息について契約書の内容によってはより高い税率の区分で課税される場合があるため注意が必要です。また自身がベトナム国内契約者で相手側が外国契約者である場合、このFCTについて源泉徴収といった形で対価から控除して支払いを行うこととなるため、事前に相手方に説明の上、グロスアップをして契約書を取り交わすなど合意を取っておくことが必要となる場合もあります。このため契約書を締結する場合は、サービスの区分を明確にし、また、どちらがFCTを負担するか検討し、より慎重に作成する必要があります。

日越租税条約が存在するものの外国契約者にベトナム国内に恒久的施設の有無にかかわらず課税され、租税条約に関係なく国内法を優先されることもあることから日本側での外国税額控除についても論点があります。(外国税額控除の対象はCIT部分のみ)



担当:BDO ベトナム 内田 強 uchida@bdo.vn

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【中国】現地ナショナルスタッフとのコミュニケーション

日本企業の海外進出に伴い、中国や東南アジアなどアジア諸国を中心に、多くの日本人が海外駐在員として外国で働いておられます。駐在員として海外に派遣されると、クライアントが日系企業であればその企業で派遣されている日本人駐在員とのコミュニケーションが多くなり、直接クライアント企業のナショナルスタッフと接する機会は多くないかも知れません。しかし、現地法人の社内では、駐在員の人数も限られており、当然、ほとんどがナショナルスタッフとのやり取りになるでしょう。こうしたナショナルスタッフとのコミュニケーションは、駐在員に限らず、日本本社から出張で現地に行く出張者でも起こることになります。  それでは、うまくナショナルスタッフとのコミュニケーションを取って、海外業務を進めていくためにはどのような点に注意したらよいでしょうか。

第一に、ナショナルスタッフは日本人とは様々な面で異なる国民性を持っているということを十分に理解し、常に意識しておくことです。言うのは簡単ですが、なかなかこれが難しいものです。経済的、宗教的、文化的など多くの点で日本人とは異なり、様々なバックグランドで生まれ育った人たちとうまくコミュニケーションを取っていくためには、相手との距離感を適切に感じることが重要です。私はこれを『センス』と呼んでいます。日本では昔から『阿吽の呼吸』、最近ですと『忖度』という言葉に代表されるように、言わなくてもなんとなく分かる、却って皆まで言うのは野暮である、というような文化があります。この点が、海外での駐在を始めたばかりの日本人が最初に苦労する点で、「そんなことまで言わなくても分かってくれよ」「(自分では指示しているつもりなのに)どうしてこんなことも分からないのか」という駐在員の嘆きに繋がってしなう背景になっています。しかし、多様な価値観を持ったナショナルスタッフと上手くコミュニケーションを取らなければならない海外業務では、相手の言っていることがどういう背景からどういう趣旨で言っているのか、日本人の常識で解釈しようとせずに相手の目線で適切に解釈できる『センス』を持つことが重要です。逆に、自分の言いたいことをうまく文化の違う相手に理解してもらえるような話し方をすることも重要で、自分の意図を正確に伝えて期待したアウトプットを得るためには、場合によっては相手に容易に理解してもらえるような丁寧な(省略した言い方でない)言い回しが必要になります。

次に重要なのは、自分の言いたいことを説明する際に、理由をきちんと説明して納得してもらうことです。たとえば、会社のマニュアルで斯々然々をナショナルスタッフに理解してもらい、マニュアル通りの製造をしてほしい場面だったとします。製造前にきちんと機械を清掃してから製造するというマニュアル指示について、単に清掃してください、だけでは、ナショナルスタッフにとっては、なぜそうするのかの理由も分からず、ただ面倒な工程が増えるだけだと受け止められてしまいます。しかし、この製造機械の清掃をしない→この機械で製造する過程での不良率が増加する→決まった数量を製造するまでの時間がかかる→時間がかかると納期に間に合わせるために残業をしないといけない→早く家に帰れない、だったり、この製造機械の清掃をしない→この機械で製造する過程での不良率が増加する→会社の損益が悪化する→ボーナスが下がったり昇給が難しくなったりする→夕食のおかずが一品減る、といったように、ナショナルスタッフ自身の何らかの不利益に繋がる可能性もあり得ると具体的なロジックを伝えれば、そうならないようにこのルールを遵守しなければいけないと理解してくれます。日本では、集団主義的なところがあって、上司からの指示であれば理由はよく分からなくても言われた通りに作業を進めようとする傾向がありますが、海外では従業員と同じ数の「Why?」と付き合わないと工場が動かないこともあるのです。せっかく指導して出来るようになってくれても、日本人が帰国するとすぐに指導した通りのやり方ではなく、勝手に違うことを始めるというようなこともよく耳にします。作業手順の理屈を納得してもらっていれば、そういうことは減るでしょう。海外業務を機にさまざまな社内ルールやマニュアルがある中で、この項目はどういう意味があるのだろう、きちんとナショナルスタッフに説明できるだろうか、という観点で見直してみると良いと思います。

最後に、率先して手本を示す、ということです。みなさんは、海外工場でごみが落ちていた時、日本人の現法社長が何気なくそのゴミを拾って捨てたところ、ナショナルスタッフにはゴミを拾うのは社長の仕事だ、と映って、以後スタッフがゴミを拾うことはなかった、という話を聞いたことがありますか。海外では、日本のいわゆる総合職のような考え方はなく、スタッフのアサインは各業務に分業されているので、自分の横の人がどんなに業務上のトラブルで困っていても助けたりすることはないと言います。確かにそういった部分はありまして、当初の労働契約で定めた職務分掌(ジョブディスクリプション)以外のことを行うことは、それを自分の業務としている人の仕事を奪うことだというのが基本的な考え方にあります。

しかし、あえて「率先して手本を示す」ことの意義を申し上げたいと思います。日系企業では、日本人が海外拠点に駐在すると若手であっても現地法人のマネジャーだったり課長だったりの肩書にされる場合が多いです。また、給与水準もナショナルスタッフとは異なるレベルの日本本社採用としての給与水準で支給されることが大半です。日系企業に勤めるナショナルスタッフは日系企業に勤めている点でこの部分をある程度理解してはいますが、やはり面白く思っていないスタッフも少なくありません。そうしたスタッフには、あえて「率先して手本を示す」ことで、あなたの業務を私が出来ないからやってもらって承認しているだけなのではなく、もちろん私も完璧に出来るが、あえてそれをあなたにお願いして、私自身の給与に見合ったレベルの業務を行おうとしているだけだ、と理解してもらうのです。

私が以前、中国勤務をしていたある時、部下の出納担当のスタッフが病気で3日ほど休んだことがありました。その間、本人は日々自分の行っている支払や請求の業務が3日分溜まっていることと思ったようでしたが、3日分きれいに私が処理しておいたので、とても驚いていました。私のような日本から来た人は、そういった細かい送金業務など中国事情は分からないから出来ないものと思っていたようです。それまでは、私の指示にも事あるごとに言い訳をして素直でなかったのですが、その時から私の指示にも従ってくれるようになりました。

本日は、3点申し上げましたが、最後に全体を通して一つお話します。ご自身の赴任された国、国民、マーケットに敬意を払うという心持を忘れないでいて頂きたいと思います。赴任国の国民に自社の優れた商品を提供してその国民の生活向上に資すること、といった高邁とも思える理念で海外進出し、赴任されているのかも知れませんが、一方で、日本から乗り込んでいって、かの国でビジネスをさせて頂いているというきわめて謙虚な姿勢を忘れてはならないと思います。そうした姿勢こそが、海外業務をスムーズにうまく進めることのできる一つなのかも知れません。
 

担当:BDO コンサルティング 美谷 昇一郎 shoichiro.mitani@bdo.or.jp

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【日本】令和6年度税制改正(法人税法関連)
令和6年度税制改正関連法が令和6年3月28日に参議院本会議で可決・成立されました。税制改正項目には、個人所得課税、資産課税、法人課税、消費課税、国際課税等と様々な税目に及びますが、本稿では紙面のスペースの関係上、法人課税のうち4つの改正項目について簡単に紹介します。

1.賃上げ促進税制の強化

今回の改正で賃上げ促進税制が強化されることになり、具体的な内容は以下の4点となっています。
従来の大企業向けの措置に関して、税額控除率の上乗せ措置(賃上げ4%以上に対して5%、5%以上に対して10%、7%以上に対して15%、「プラチナくるみん」や「プラチナえるぼし」の認定を受けている場合に5%等)等の見直しを行った上で、その適用期限が3年延長されます。
従来の大企業のうち従業員数が2,000人以下の法人に関して、3%以上の賃上げを行ったときは、その10%の税額控除ができる中堅企業向けの措置を加えることになりました。この場合において、4%以上の賃上げを行ったときは15% 、教育訓練費の増加割合が10%以上等であるときは5% 、「プラチナくるみん」や「えるぼし(3段階目)」以上の認定を受けているときは5%を税額控除率に加算されます。
中小企業向けの措置に関して、教育訓練費に係る税額控除率の上乗せ措置について、教育訓練費の増加割合が5%以上等である場合に適用できることとし、「くるみん」や「えるぼし(2段階目)」以上の認定を受けた場合に税額控除率に5%を加算する措置を加え、5年間の繰越控除制度が創設された上、その適用期限が3年延長されます。
法人事業税の付加価値割における雇用者給与等支給額の対前年度増加額を付加価値額から控除する措置に関して、法人税の賃上げ促進税制の見直しに合わせて、適用要件等の見直しを行った上で、その適用期限が3年延長されます。

2.イノベーションボックス税制の創設

これまで日本では試験研究等に関する税制優遇措置としては、研究開発税制のみが存在する状況でしたが、フランス、オランダ、イギリスといった他国においてはイノベーションボックス税制の導入もなされている状況にも鑑み、令和6年度税制改正にて、イノベーションボックス税制の創設がなされました。
当該税制では、国内で自ら研究開発した知的財産権(特許権、AI関連のプログラムの著作権)から生ずる譲渡所得やライセンス所得のうち、最大30%の金額について、その事業年度において損金算入できることになりました。当該改正は、令和7年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用されます。適用期間は7年間とされています。

3.交際費から除外される飲食費に係る見直し

交際費等の額は、原則として、その全額が損金不算入とされていますが、損金不算入額の計算に当たっては、法人の区分に応じて、一定の措置が設けられています。
この点、飲食等のために要する費用(社内飲食費を除く)であり、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割った金額が5,000円以下である費用については、交際費等の範囲から除かれていますが、この点、令和6年度税制改正では、損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準を上記の一人5,000円以下から1万円以下に引き上げることになりました。当該改正は、令和6年4月1日以後に支出する飲食費について適用され、また、その適用期限が3年延長されます。

4.外形標準課税の適用対象法人の見直し

現行基準では、資本金が1億円超である法人は外形標準課税の対象法人となりますが、令和6年度の税制改正においては、外形標準課税の対象法人については、現行基準を維持した上で、当分の間、前事業年度に外形標準課税の対象であった法人であって、当該事業年度に資本金1億円以下になるものの、資本金と資本剰余金の合計額が10億円を超える法人は、外形標準課税の対象とすることになりました。上記の改正は、令和7年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用されます。
また、資本金と資本剰余金の合計額が50億円を超える法人等の100%子法人等のうち、資本金が1億円以下で、資本金と資本剰余金の合計額が2億円を超えるものは、外形標準課税の対象とする改正も導入されることになりました。上記の改正は、令和8年4月1日に施行され、同日以後に開始する事業年度から適用されます。

担当:BDO 税理士法人 岸 賢一郎 kishi@bdotax.jp

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